事例ご紹介

支援導入事例

  • 当社事業継承支援の豊富な実績の中から一例を掲載します。 下記以外の親族内承継、従業員承継の事例については、お気軽にお問い合わせください。

相談概要

都内某所にて約50年間、精密金属部品の加工業を営んでいるA株式会社B社長からのご相談。社員数15名。
年商約2億円で、業況は比較的安定している。
社長は70歳と高齢であるが、営業、設計、製造、管理等、ほぼ全ての社内業務に直接携わるなど、今日まで現場の第一線で活躍してきた。
しかし最近、体力や記憶力の衰えを感じ、そろそろ身を引きたいと考えるようになった。
事業承継について社長は、これまで漠然と考えてはいたが、特に具体的な対策は取ってこなかったので、どのような手順で進めればよいのかわからず、助言を求めて来社された。

支援内容

(1)簡易ヒアリング

まずはB社長に簡易ヒアリングを行ったところ、以下の回答を得た。
「できるだけ早く事業承継を実現させたい」
「一応、義理の弟であるC取締役(勤続20年)を後継者候補と考えているが、事業承継について本人と話し合ったことはない」
「現在の業績は良好であるが、競争激化で今後は厳しくなると思う。後継者にはそれなりの覚悟と責任がないと務まらない」
「承継後は経営からきっぱりと身を引きたい。但し、引退後の生活資金として相当の退職金は確保したい」

(2)「事業承継報告書」の作成

事業承継実現に向けた現状と課題を整理するために決算書等資料の確認とヒアリングを行い、「事業承継診断報告書」を作成した。当報告書の作成作業と記載した内容は以下の通りである。
直近3期分の決算書等をもとに実態貸借対照表を作成した。固定資産の含み損益その他の調整計算をしたところ、純資産額はプラスであることから自社株式を評価する必要がある。
株主構成を確認したところ、社長以外に後継者候補を含む4名(いずれも社長の親族)の少数株主がいるので、事業承継時までに株式の集約化が望ましい。
他社で対応できない加工技術を持った社員や機械装置を有しており、また優良顧客を持っていることから、今後数年の収益状況は安定的に推移するものと思われる。
社員の高齢化と機械装置の老朽化が問題となっていること、徐々にではあるがメイン製品の利益率が落ち始めていることから、中長期的には収益が低下するリスクがある。
借入金残高が売上と比較してやや多いが、営業キャッシュフローから返済できており、現状では資金繰りの問題は生じていない。
これらの収益・資金状況からC取締役が承継しやすい環境にあると言えるが、中長期的には業績悪化のリスクを内包しており、早めの対応が必要である。
C取締役は長年、工場にて加工作業の職務に従事している。年齢は63歳。職人タイプで、経営者としての経験もスキルも不足している。
本社工場はB社長個人の土地を会社に賃借している。事業承継後の賃貸借関係、相続関係等を税対策も織り込みながら整理し、事前の対策を講ずる必要がある。

(3)事業承継実現に向けた支援プランの提案

「事業承継診断書」の内容を踏まえて、以下のような事業承継実現までの支援プランを提案した。

①後継者候補C氏との協議

事業承継に対する率直な思い聞き、承継の意思と、その条件等を確認する。

②経営計画書の作成支援

事業継続の条件となる中長期的に収益と資金を確保し続けられる計画書を作成する。

③株式集中化、相続に関するタックスプラン

顧問税理士等と連携した支援により、適切な対策を立案し税務リスクの回避を図る。

④社長と後継者候補の合意形成

事業承継の具体的イメージを共有していただき、合意形成を図る。

⑤事業承継計画書の作成支援

株式承継、資産承継、後継者育成、収益・資金計画、関係者へ報告等、事業承継の実行に向けたアクションプランを時系列でまとめた「事業承継計画書」を作成する

⑥事業承継計画のフォローアップ

金融機関との各種交渉や、後継者育成、その他の課題解決に向けた支援を行う。

(4)実行支援

提案した支援プランに沿って事業承継実現までの支援に入った。前述の通り、当社の経営は比較的安定しており、後継者候補のC氏にとっては引き継ぎやすい状況にあるが、本人と面談したところ事業承継について以下のような考えを聞くことができた。

  • 「今から経営者になるには年齢的に厳しい」
  • 「社長はもっと早く事業承継の準備を進めるべきだった。いまさら頼むと言われても・・」
  • 「自分は経営者としてのスキルを何も学んでこなかったので、皆を束ねていけるか不安」
  • 「社長が作った借金をなぜ自分が背負っていかねばならないのか?」
  • 「この会社のことは好きである。後継者がいなくて会社がなくなってしまうには惜しい」
  • 要するに、後継者候補は「今から経営者としてやっていけるか甚だ不安である。しかしこれからもこの会社で働き続けたい」と考えていた。
    一方でB社長はC氏に対して、継いでほしいとは思っているものの、現場一筋でやってきたC氏に経営が務まるのか、不安に思っている。
    両者がこのような不安を感じているのは、現状から判断すると決して不自然なことではないので、C氏へ事業承継すること以外の方策も検討することにした。
    具体的には、「その他の後継者候補への事業承継」、「M&A」、「廃業」である。
    まずは「その他の後継者候補への事業承継」であるが、社長のご子息はいずれも他社で働き、承継の意思はないことを既に確認しているので可能性はない。また従業員その他の後継者候補も今のところ見当たらない。
    「M&A」については然るべき専門家や機関へ打診してみたが、社長が望むような短期間で相手先を見つけることは極めて困難であるとの回答であった。
    「廃業」の選択肢は、業績好調で返済余力もある現状での廃業することは従業員の雇用や担保資産への影響等を考えると極めて不合理であることが判明した。
    この結果を受けて、「C氏を後継者候補として検討することが最も現実的な対応であり、協議によって両者の不安を一つずつ取り除いていくことが望ましい」と提案したところ、両者は同意した。
    改めて後継者候補の不安をまとめると、以下となる。

  • ①金融機関からの借入金を返済していけるか?
  • ②個人保証することで、家族に迷惑をかけてしまうのではないか?
  • ③経営者としての経験もなく、体力的にも厳しい年齢(63歳)の自分が、やっていけるか?
  • これらの不安に対して、当社の経営状態を決算書、資金繰り表等から丁寧に説明した。さらに、SWOT分析や得意先別・工場別の採算性分析等を行って、後継者候補と共に当社の方向性や課題を整理したうえで事業承継を見据えた経営改善策を検討し、5か年経営計画書を作成した。
    いくつかの経営改善策のうち影響が大きいもののひとつに地方工場の売却がある。この判断は、採算性が悪く、将来性も見込めない製品の製造を1年後に中止することに伴うもので、以下の効果が見込める

  • ・売却代金の借入金返済への充当で借入金を圧縮できる
  • ・借入金の圧縮により、個人保証の負担も軽減できる
  • ・地方工場維持のための固定費が削減できる
  • ・自社の技術力の強みを生かした高利益率の製造へシフトすることで収益性が向上する
  • ・組織再編の機会となり、次世代を担う若手人材を後継者候補の右腕として抜擢するなどして、組織運営の円滑化、活性化につながる
  • こうした改善策は集中と選択、即ち規模縮小に他ならないが、業務効率や生産性が向上し、全社マネジメントがしやすくなることがC氏の安心感を引き出した。
    また、毎期確実に一定の利益を出し、そこから借入金を返済していける見通しが立ったことで、今後「経営者保証ガイドライン」に沿った形でいずれ個人保証を免除できる可能性もあることを説明したところ、C氏も事業承継に対して前向きに準備することに同意した。
    こうした一連の支援によってC氏のやる気や覚悟に対する変化を感じたB社長は、C氏の経験やスキル不足に対する不安が少なくなり、任せてみようかという気持ちに傾いた。
    そして、経営計画書に社長退職金を織り込んだことや、後継者候補が個人保証に応じたことで、社長が描いていた引退後の平穏な生活も現実のものとしてイメージできるようになり、事業承継の不安が相当程度軽くなったことが見て取れた。

    そこでC社長に「引退するまでは積極的にC氏を教育しながら支えていってほしい」と伝えたところ、快諾した。これによって両者の不安や不信感は相当程度解消することができたことを実感することができた。その後、株式移転、権限移譲その他の項目も検討したうえで3年以内に事業承継を実現させるスケジュールを記した「事業承継計画書」を作成し、合意形成に至った。

    支援成果

    今回の支援は、最初にB社長から相談があった時から両者の合意形成まで約1年を要した。
    事業承継は、社長と後継者双方にとって、第二の人生を始めるか否かを決断する重要な手続きであり、また社員、取引先、金融機関、家族等々多くの関係者に影響を与えることから、様々な悩みや不安と葛藤しながら決断する方がほとんどである。特に高齢になればなるほど、気持ちが揺れ動いたり、あるいは固定観念に囚われたりして合意形成までに長い時間を要する傾向にある。
    今回の支援でも、両者の間で時に感情的になって、対立することもあった。社長は「自分が懸命に働いて築いてきた会社を、労せず手に入れることができるのだから、恵まれている。経営者になるのだから一定の責任が生じるのは当然である。覚悟を示せ!」と迫り、後継者は「なぜもっと早く事業承継の準備をしてこなかったのだ?急に、引退するから借入金を引き受けろと言われても勝手すぎる。無責任ではないか!」言い返す。売り言葉に買い言葉で、他責の発言が続くこともあった。
    そうしたときに、間に入って客観的立場で今どういう状況にあるのか資料を使って説明したり、他社の事例を紹介したり、様々な視点から質問をするなどして、両者の視野を広げ、冷静に協議できる場づくりに努めるのが我々支援者としての務めである。また事業承継に関する専門性を生かして財務、法務、税務、労務等の面からも時には外部専門家の力を借りながら適切なアドバイスを行った。
    こうして徐々に社長と後継者がお互いのこと、さらには会社全体のことを考えるようになり、関係者全員が事業承継によってより幸せになれるためにはどうすることがベストな選択になるか、考えるようになった。
    最終的には「経営計画書」と「事業承継計画書」によって、事業承継実現までの具体的プロセスが明らかになり、そのことがそれぞれの幸せにつながることであると納得し、温和な表情で、事業承継や日常業務について話し合うようになったことが本支援におけるここまでの成果である。これからも予算実績管理、金融機関交渉、後継者教育等のきめ細かいフォローアップ支援を継続的に行うことで、“幸せな事業承継”を実現させたいと考えている。
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